ぜろろぐ

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NHK「日本人のおなまえっ!」で放送された「糸満という地名の由来はエイトマンから?」という説の件

先日2月4日にNHKで放送された「日本人のおなまえっ!」は沖縄特集だったのですが、その中で「糸満という地名の由来はエイトマンからきている?」というふうに取り上げられていました。

www.nhk.jp

web.archive.orgInternet Archive

 

その内容としては、「糸満沖で遭難したイギリス船の乗組員が命からがら陸にたどり着き、その後洞窟に身を隠していた。その人数が8人であり、すなわち「エイトマン」がなまって糸満になった」というようなものでした(一応諸説ありとはしていたけど)。

 

これを見て感じたのは「外国船が流れ着くってのなら1700~1800年代だろうけど、そもそも糸満の方言読みって「イチマン」とか「イチュマン」のはずだしちょっと異説すぎない?」というものでした。


そういうわけで休日を利用してこの「糸満の由来はエイトマン?(以降エイトマン説とする)」について調べてみました。

地域のことについてはその地域にある図書館や博物館・資料館に足を運んで調べるのが一番なので、本来であれば糸満市立中央図書館あたりに行くのが順当なところです。
しかしいかんせん那覇から糸満となるとそれなりに距離があるので、次の手段として県立図書館に向かうことにしました。

www.library.pref.okinawa.jp

 

2018年12月にそれまでの那覇市寄宮(与儀公園のとこだから与儀じゃないの?となるんですがあのあたりは寄宮だそうです、道向かいの赤十字病院あたりが与儀)から旭町のバスターミナルと同敷地に移転しました。

 

とりあえずその説の冒頭で取り上げられていたのは糸満市史だったので調べてみると、エイトマン説については以下のように書かれていました。

1933(昭和8)年の糸満尋常高等小学校50周年記念事業で『糸満町誌』の編集委員であった玉城貫は、1 俗間蟹浦説、2 異説エイトマン説およびアベー説、3 宮良當壮説、4 池宮城寂泡説を検討し、「糸満は優れたる漁師」ということであるとの意見をまとめている(玉城貫「地名考二つ三つ」『糸満尋常高等小学校50年記念誌』1934年。)

糸満市史 資料編13 村落資料―旧糸満町編―』p11より
 

となると次に調べるのはこの元資料である『糸満尋常高等小学校50年記念誌』になるのですが、残念ながら県立図書館には所蔵がありませんでした(横断検索で調べてみると糸満市立中央図書館のみ所蔵ありでした)。

 

念のため著者である玉城貫で再度検索したところ、別の資料にも掲載されていることがわかりました。その資料でエイトマン説に関しての記述が以下になります。

二、異説エイトマン説およびアベー説前説は八人の偉人が漂着して此處に永住した。卽ち英語の八と人の意である。後説はイビヌメー(白銀堂)は英語のアベーの訛つたもの、二説合せて糸滿人の祖先は異人であると云ふのである。二説とも餘りに學問を弄するものと云はざるを得ない。
(表記はすべて原文ママ

玉城貫「地名考二つ三つ」『月刊文化沖縄 第1巻5号[マイクロフィルム複製本]』p16より
 

 二説とも餘りに學問を弄するものと云はざるを得ない

 

二説とも餘りに
學問を弄するものと
云はざるを得ない

なんでよりにもよってこの説を取り上げた……

いやほんとこの記述読んだあと冗談抜きにこんなになりましたよ。

ちなみに、この直後に伊波普猷の説が取り上げられていますがそれは以下のような内容です。

伊波普猷は「あまみや考」で、糸満の語源は「多分イトは岬の義で、マンは磯若しくは干瀬の義であらう」としている(『日本文化の南漸』1939年)。

糸満市史 資料編13 村落資料―旧糸満町編―』p11より
 

 また、玉城貫は「地名考二つ三つ」の中で「イトマンはイト・アマンの訳でイトは第一のとか優れたるとかと意味する古語、アマンはアマ、すなわち海人で、イトマンは優れた漁師ということであろう」としています。

 

確かに地名に関する由来ははっきりしないことが多いので「諸説あり」とするのは仕方ないとは思います。しかしそれを差し引いても、元資料にここまで書かれている説をこともあろうにNHKの番組で取り上げてしまうのにはいささか問題があるのではないでしょうか。

 NHKの番組で近年問題になっている番組といえばチコちゃんがありますが、あれに通じるものを感じてしまいます。

togetter.com

mainichi.jp

 

そもそもNHKの番組って視聴率はある程度脇に置いといて、民放にはできないような調査とかと活用しての「質」が求められていると思っていたんですが、それは思い違いか見込み違いだったんでしょうか。

番組の制作費用とかがいろいろ厳しいみたいな話も聞こえてはくるけど、視聴してて「この番組いい内容だな」と思うことも少なからずあるので、そこはやっぱりNHK頑張ってほしいなと思うんですよね。「質」で勝負できるっていうのは強みのはずなので。

 

今回はあくまで糸満のことがメインだったので深くは調べなかったけど、那覇とコザの由来に関してはそこまでおかしくはないらしい、というのは一応付記しておきたいです。

crd.ndl.go.jp

crd.ndl.go.jp

 

というわけで番組を視聴して疑問に感じたことを自分で調べて、備忘録的に書き起こしてみました。なにかの参考になるのでしたら幸いです。